名義株とは?時効の有無・発生原因・問題点・判断基準・解消方法

名義株とは

名義株の存在はM&AやIPO、相続などの際にトラブルを引き起こす可能性があるため、早期に解消する必要があります。しかし、解消方法がわからなかったり、そもそも本当に名義株なのかはっきりせず困っている方も多いでしょう。

本記事では、名義株の判断基準や解消方法、時効の有無などについて解説します。保有している株式に名義株の疑いがある場合は、ぜひ参考にしてください。

目次

名義株とは株主名簿の株主と真の株主が異なる株のこと

名義株 株主名簿 真の株主

名義株とは、株主名簿に記載されている株主(名義人)と、実際にその株式に出資して配当を受け取る真の株主(実質株主)が異なる状態のことを指します。例えば、実質株主はAさんであるにもかかわらず、名義人はAさんの親族であるBさんになっているケースです。

名義株は実質株主の判断が難しくなるため、M&Aの際のトラブルになることもあります。また、税務調査で追徴課税される可能性もあるため、早期の解消が重要です。

時効による所有権移転の可能性がある

実質株主と名義人が異なる状況が長期間続くと、民法の時効取得の規定により、名義人が株式の真の所有者になる可能性があります。

民法162条と163条にて、20年間(善意・無過失の場合は10年間)に渡り所有の意思をもって他人の物を平穏かつ公然と占有した者は、時効によってその所有権を取得すると定められているためです。

ただし、名義株に時効取得が認められるかどうかは名義人が株主としての権利を行使していたかなど、個別の事情により判断されます。

判例では「名義人は株主ではない」との結論が出ている

過去の裁判では「名義人は株主ではない」との判断が下されており、それに従うのが通例となっています。裁判所は株式の帰属先を判断する際に、以下3つの要素を総合的に考慮します。

  1. 株式の取得代金や払込金の出捐者(実際に支払った人)
  2. 名義貸与者(名義人)と名義借用者(実質株主)との関係
  3. 名義を借りた理由の合理性

上記を踏まえ、名義人ではなく実質株主が真の株主であると判断するのが一般的です。

名義株が発生する原因3つ

名義株 発生 原因

名義株の状態が起きる原因は、以下3つです。

  1. 相続税対策のため
  2. 平成2年の商法改正前は発起人を7人以上集める必要があったため
  3. 経営者に破産歴や欠格事由があったため

ひとつずつ押さえておきましょう。

1.相続税対策のため

名義株は、相続税対策によって生じることがあります。株式の保有者が将来の相続税負担を軽減しようと、名義を子などの親族へ移すことがあるためです。

しかし、名義だけの変更では真の株主は経営者のままであり、相続税対策にはなりません。したがって、税務署の調査で名義株と認定された場合、多額の追徴課税を受ける可能性があります。

2.平成2年の商法改正前は発起人を7人以上集める必要があったため

平成2年以前の商法では、株式会社を設立するには7人以上の発起人が必要とされていました。しかし、小規模企業にとって7人もの発起人を集めることは容易ではありません。

そこで、株式会社を設立するために以下の方法が取られました。

  • 親戚や社員などに形式上の株主になってもらう
  • 株主名簿には名前だけを記載し、実際の出資は経営者が行う

上記の方法で設立された企業が現在も存続している場合、当時の名義貸借の状態がそのまま継続されていれば、その株式は名義株となります。

平成2年に商法が改正されて発起人の人数制限はなくなりましたが、過去の名義貸借が解消されていない場合、名義株の問題が残っている可能性があります。

3.経営者に破産歴や欠格事由があったため

経営者に破産歴や欠格事由がある場合も、名義株が発生する原因として考えられます。会社法第331条では、以下のいずれかに該当する者は取締役に就任できないと定められており、取締役になる際は別人名義で株式を保有しなければなりません。

  • 会社法違反等の罪により刑に処せられ、執行を終わり、または執行を受けることがなくなった日から2年を経過しない者
  • 法務省令で定める者

上記の欠格事由に該当する経営者が、表向きは別人を株主として登録し、実質的に経営に関与することがあります。このように、経営者の破産歴や欠格事由を隠蔽するために、名義株が作られることがあります。

名義株が抱える5つの問題点・デメリット

名義株 問題点 デメリット

名義株が抱える問題点やデメリットは、以下のとおりです。

  1. M&AやIPOが上手くいかない可能性がある
  2. 事業継承できない可能性がある
  3. 相続関係の問題が起きる可能性がある
  4. 売主を特定できない可能性がある
  5. 株主名簿の書き換え関するトラブルが起こる可能性がある

ひとつずつ押さえておきましょう。

1.M&AやIPOが上手くいかない可能性がある

名義株が存在するとM&Aの際に、買収側にとって大きなリスク要因となる可能性があります。買収先企業に名義株が多数存在する場合、株式の実質的な所有者が不明確になるためです。

また、名義株の割合が全体の3分の1を超える場合、株主総会の特別決議が可決できなくなる恐れがあります。このような状況では、経営に支障をきたす可能性が高いため、M&Aの交渉が難航してしまうものです。

そして、株式の上場(IPO)を目指す企業にとっても名義株の存在は問題となります。上場審査では、株式の所有関係の透明性も基準のひとつとされているためです。名義株が発覚した場合、上場が認められない可能性があります。

2.事業継承できない可能性がある

名義株の存在は、事業承継の際にも大きな障害となることが考えられます。

事業承継では、オーナー経営者が保有する株式を後継者に譲渡することが一般的です。しかし、名義株の場合は実質的な株主であるオーナー経営者の名義ではないため、株式譲渡ができません。

また、名義株の存在により後継者が企業の支配権を確立できなくなる可能性もあります。後継者が株式を十分に集約できないと経営の安定性が損なわれ、事業継承が困難になってしまうでしょう。

3.相続関係の問題が起きる可能性がある

名義株の存在は、相続の際に複雑な問題を引き起こす可能性があります。

相続税法上、名義株は名義人ではなく、実質的な株主の相続財産として扱われます。つまり、株主名簿上は別人の名義になっていても、亡くなった実質株主の相続財産に含まれるのです。

ところが、名義人のみを相続人として相続税を申告してしまうと、後に税務調査で指摘を受けて追徴課税が発生するリスクがあります。

さらに、相続発生時には被相続人が亡くなっているため、真の株主の特定が難航するケースが多くあることも問題です。

4.売主を特定できない可能性がある

M&Aにおいて、名義株の存在は売主の特定を困難にする可能性があります。

売り手側は、名義株の実質的な所有者を売主として株式売買契約を結ぶつもりでいても、買い手側や名義株主本人が認めない可能性があります。株式の帰属は株式取得資金の拠出者や名義人と実質株主の関係、名義借りの理由などを総合的に判断する手間がかかるためです。

売主が明確でないまま株式売買が行われ、代金が支払われた後に名義株主が「自分が真の株主」だと主張してきた場合、買い手側は二重の支払いを求められるリスクを負うことになります。このようなトラブルを避けるために買い手側は慎重になり、M&Aを断念するケースも考えられます。

5.株主名簿の書き換え関するトラブルが起こる可能性がある

名義株が存在する場合、株主名簿の書き換えに関するトラブルが発生する可能性があります。例えば、売り手側が名義株の存在を隠蔽するために、正式な手続きを踏まずに株主名簿を書き換えてしまうケースです。

しかし、実際には株主名簿の書き換えは違法です。

また、M&A後に名義株の存在が発覚した場合、買い手側にも何らかの責任が及ぶ可能性があります。そのため、買い手側も不正な株主名簿の書き換えについて、知らなかったでは済まされません。

名義株かどうかを判断する基準4つ

名義株 判断 基準

名義株かどうかは、以下4つの基準を総合的に考慮したうえで判断します。

  • 誰が配当金を受け取っているのか
  • 取締役会の議事録に株主変更の痕跡があるか
  • 株式がどのような手段で入手されたか
  • 自身が株主だと認識しているか

ひとつずつ押さえておきましょう。

誰が配当金を受け取っているのか

名義株の判断基準としては、株主名簿上の名義人が配当金を受け取っているかどうかが重要なポイントです。

具体的には、配当金が株主名簿上の名義人以外の口座に振り込まれている場合、名義株の可能性が高いと判断されます。また、配当金を小切手で受け取っている場合、その半券も確認の対象となります。

したがって名義株のリスクを避けるためには、配当金は必ず名義人の口座に振り込み、受領書にも名義人本人が直筆でサインすることが重要です。

取締役会の議事録に株主変更の痕跡があるか

取締役会の議事録も、名義株の有無を判断するうえで重要な手がかりとなります。原則として、株式を贈与したり所有者を変更したりする際は、取締役会の承認が必要とされています。

つまり、株主の変更や株式の贈与が行われた場合、その決議の記録が取締役会の議事録に残されているはずです。仮に株主名簿上の変更があったにもかかわらず、議事録に承認の記録がない場合は、名義株の可能性が高いと判断できます。

株式がどのような手段で入手されたか

名義株の判断基準として、株式の入手経路も重要な要素のひとつです。

株式を贈与により取得した場合、贈与契約書があるはずです。売買により取得した場合は、売買契約書が必要となります。

また、株式を出資により取得した場合は、いくら出資したのかを明確にしなければなりません。これらの契約書や出資の記録が存在しない場合、名義株であると判断される可能性が高くなります。

自身が株主だと認識しているか

名義株かどうか判断する際、所有者本人の株主としての自覚があるかどうかも問われます。

実際に、税務調査のときに「いつから株主になったのか」という質問がされることがあります。この質問に対し「いつの間にか株主になっていた」と回答がされた場合は「名義株である可能性が高い」と判断されるのです。

具体的には、親が子に知らせずに勝手に株式の名義を変更していたようなケースです。このような場合、子は自分が株主であるという認識がないまま株主名簿に記載されていることになります。

名義株の解消方法を3つのケースから解説

名義株 解消 方法

名義株の解消方法を以下3つのケースに分けて手順を解説します。

  1. 名義人の協力が得られるケース
  2. 名義人の協力が得られないケース
  3. 名義人の所在が不明なケース

自分に該当するケースを参考にしてみてください。

名義人の協力が得られるケースの手順

名義人の協力が得られる場合は、以下の手順で解消していきましょう。

  1. 名義人から念書と確認書を取得する
  2. 名義人と共同で株主名簿を書き換えを行う

ひとつずつ解説します。

1.名義人から念書と確認書を取得する

名義人の協力を得られる場合は、念書と確認書をもらいましょう。

具体的には「名義貸与承諾証明書」などの書類を作成し、名義人に自署・押印してもらいます。さらに、公証役場で確定日付を取得することで法的な効力を高められます。

書類には、以下の3つの内容を明記してください。

  1. 株式の取得代金や払込金の出捐者(実際に支払った人)
  2. 名義貸与者(名義人)と名義借用者(実質株主)の関係
  3. 名義を借りた理由

上記の内容を明確にすることで、名義株であると証明しやすくなるでしょう。

2.名義人と共同で株主名簿の書き換えを行う

名義株を解消するためには会社法第133条2項に基づき、名義人と実質株主が共同で株主名簿の書き換えを請求する必要があります。この際、株主名簿上の名義を実質株主に書き換えることになります。

また株券発行会社の場合、名義人が株券を保有していれば、実質株主への引き渡しも必要です。

これらの手続きを適切に行うことで、名義株を解消できるでしょう。

名義人の協力が得られないケースの手順

名義人の所在は明らかになっていたとしても、名義株解消への協力を得られないケースもあります。例えば、企業がM&Aを行うと知り、売却代金欲しさに真の株主であると主張してくるなどのケースです。

このような場合は、以下の手順で対処しましょう。

  1. 名義株だと証明できる資料を用意する
  2. 確認書を作成して株主名簿と法人税別表2を書き換える

ひとつずつ解説します。

1.名義株だと証明できる資料を用意する

名義人が協力を拒む場合、名義株であることを証明する資料を準備しましょう。

まず、過去の株主総会議事録を精査し、名義人が株主総会に一度も出席していないことを示す書類を作成します。次に、配当金の支払記録を調べ、名義人が配当を受け取っていないことを明らかにする書面も用意しましょう。

これらの資料を用意することで、名義人が株主としての実質を伴っていない点を立証できる可能性が高まります。

ただし、この方法は名義株問題の完全な解決にはつながりません。とはいえ、用意した資料によって名義株であると証明できれば、名義株主の主張を退けられるでしょう。

2.確認書を作成して株主名簿と法人税別表2を書き換える

名義株の存在が判明しても、勝手に株主名簿や法人税別表2を書き換えてはいけません。

まずは名義株であることを証明する確認書を作成しましょう。確認書には、主に以下の項目について記載します。

  • 株式の取得資金の出所
  • 名義人と実質株主の関係
  • 名義借りの理由

次に、確認書を根拠に名義人を説得し、株主名簿と法人税別表2の書き換えへ合意させます。名義人の同意なく書類を変更してしまうと、法的なトラブルに発展する可能性があるため、注意が必要です。

名義人の所在が不明なケースの対処法

名義人の所在がわからない場合は、以下4つの方法で対処できる可能性があります。

  1. 「所在不明株主の株式売却制度」を利用する
  2. 訴訟により株主名簿を書き換える
  3. 「株式併合」を行い名義株を買い取る
  4. 「特別支配株主の株式等売渡請求制度」により名義株を買い取る

ひとつずつ押さえておきましょう。

1.「所在不明株主の株式売却制度」を利用する

名義人と連絡が取れない場合は、所在不明株主の株式売却制度の利用を検討してみてください。所在不明株主の株式売却制度は、以下2つの条件を満たす場合に適用できる制度です。

  1. 株主に対する通知や催告が5年以上継続して到達しない場合
  2. その株主が5年間継続して配当を受領していない場合

上記の条件を満たすことで、取締役会の決議と裁判所の許可を得たうえで、株式の競売や売却、または自社での買い取りができます。

2.訴訟により株主名簿を書き換える

名義株の解消には、原則として名義人の同意が必要です。しかし、名義人の所在が不明な場合は、訴訟により株主名簿を書き換えられます。

実際に「会社法施行規則第22条第1項第1号・第2号」では、訴訟で株主名簿の書き換えを命じる判決を得られれば、名義人の同意なしに株主名簿を書き換えられると定められています。

3.「株式併合」を行い名義株を買い取る

名義人の所在が不明な場合は、株式併合によって名義株を強制的に買取りが可能です。

株式併合とは、複数の株式を1株に統合することです。例えば、2株を1株に併合すれば、株主の保有株式数は半減します。

株式併合することで、名義株主の保有株式数を1株未満にできます。そして1株未満の端数株式は、会社側は強制的に買取りが可能です。

4.「特別支配株主の株式等売渡請求制度」により名義株を買い取る

特別支配株主の株式等売渡請求制度によっても、名義株を強制的に買取りができます。

特別支配株主の株式等売渡請求制度とは、発行済株式の90%以上を保有する大株主(特別支配株主)に、少数株主の株式を強制的に売り渡すよう請求する権利を与えるものです。

つまり、90%以上の株式を保有している株主がいる場合は、名義株主の株式を強制的に買い取れます。

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